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急性腰痛 (ぎっくり腰)

急性腰痛 (ぎっくり腰)の原因、アプローチについての事例をいくつか挙げてみます。

魔女の一撃

ぎっくり腰とは、整形外科学的にいうと、急性腰痛になります。メカニズム的な定義としては、椎間板内の髄核が後方に移動し、痛みのセンサーである知覚終末を刺激するという事になっています。別項でも何度かご説明した様に、椎間板とは二層構造のクッションです。ジャムパンのパン生地が繊維輪に相当し、ジャムが髄核に相当します。人体の構造上と機能上、髄核には、上下に圧縮されながら、後方に移動する力が掛かり易くなっています。その後方移動の力が強かったり、突発的であったりすると、髄核は繊維輪を壊して後方へと移動し、椎間板の後方にある痛みのセンサーを押します。また、別のケースでは、長い時間をかけて、髄核が少しずつ繊維輪を壊しながら後方へと移動し、最終的にはやはり後方にある痛みのセンサーを押す事になります。椎間板の後方には後縦靭帯(こうじゅうじんたい)という靭帯があり、後縦靭帯には痛みのセンサーである知覚終末が密集しています。ところが繊維輪には痛みのセンサーとなる知覚終末が無い為、繊維輪を壊しながら後方移動している段階では痛みを感じません。そして最終的に髄核、もしくは髄核による圧が、後縦靭帯にある痛みのセンサーを押した時、初めて痛みが出ます。この時の痛みは激烈で、例えば、出産時の痛みを上回るともいわれたりしています。前述の様に、長い時間をかけて、髄核が少しずつ繊維輪を壊し、後方移動していく様な事前の準備が整っていると、最後は些細なきっかけによって髄核は痛みのセンサーを押す事になります。これが、今まで何も痛みを感じなかったのに、急に激痛が走るメカニズムです。これは魔女の一撃と呼ばれます。

また痛みのメカニズムの部分では、損傷した繊維輪などの組織修復の為に起こる炎症、そして炎症メディエーターによる、知覚終末への化学的な刺激であるという説もあります。

急性腰痛と腰痛方程式

髄核が圧縮されながら、後方へ移動する力が掛かる動作や姿勢は、椎間板を痛め易く、特に腰椎の椎間板を痛め易い動作、姿勢を計算式で表してみますと

腰椎の軸圧✖屈曲(ようついのじくあつ かける くっきょく)

となります。軸圧とは背骨の長軸方向に掛かる圧の事で、立位と座位の時に、背骨と重力線が一致して軸圧となります。ジャムパンのジャムである髄核が圧縮されます。屈曲とは背骨を猫背になる様に丸める動きをいいます。ジャムの髄核がパン生地の繊維輪を後方へ押します。

腰痛方程式の具体例

この軸圧✖屈曲の最たる例は、立位で腰を丸めた状態から、膝を使わずに、腰を伸ばす動きで荷物を持ち上げた時です。この時に、瞬間的に軸圧✖屈曲の数値が上がります。これは瞬間的に髄核が圧縮されて後方へ移動する動力となります。

座位で腰を曲げて何時間も経過するデスクワークでは、軸圧✖屈曲が持続するケースです。髄核の圧縮と後方移動への動力が持続している状態です。

また、椅子から立ち上がる時には、瞬間的に髄核が圧縮されて後方へ移動する動力がかかります。人は普通に椅子に座った状態から、反動を使わずに立ち上がる事が出来ません。無意識に上半身を前に倒して反動を使っています。この時、特に腰椎の下部が丸まっている屈曲状態となり、立ち上がる瞬間に上下に圧縮される軸圧が加わります。

更に長時間のデスクワークなどで、腰が丸まっている状態の後に、椅子から立ち上がる動作では、髄核の圧縮と後方移動への動力が持続した後に、急激で大きな動力が掛かり、髄核の後方移動の後押しとなり、急性腰痛の切っ掛けとなり易いといえます。

以上の様な、軸圧✖屈曲となる姿勢を回避する事が、急性腰痛を回避する上で有効です。荷物を持つ時は、膝に問題が無ければ、膝の屈伸によって荷物を持ち上げたり、膝に問題があって屈伸運動に無理がある場合では、近くにある台などに片手を添えたり、近くに台などが無い場合では、自身の太ももの辺りに手を添えながら荷物を持つなどの工夫が出来ます。膝の屈伸運動を使う事で、腰椎の屈曲を回避し、台などに手を添える動作によって軸圧を逃がしている事になります。

デスクワークなどの長時間の座位では、腰を丸めない事が重要です。実際、持続させる事は難しい部分もありますが工夫の余地はありますので、この辺りは施術後などにセルフケアとしてお伝え致します。椅子からの立ち上がりは、上半身を前に倒すのではなくて、脚をお尻の下に引いて、真っすぐ上に向かって立ち上がる様にすると良いでしょう。

急性腰痛とマッケンジー・セラピー

椎間板内の髄核の後方移動に起因している急性腰痛には、マッケンジー・セラピーが有効です。マッケンジー・セラピーでは、腰痛になり易い姿勢は、腰椎の屈曲、つまり腰を丸めた姿勢であると考えます。特に座位で、この様な姿勢になり易いです。腰痛方程式の、腰椎の軸圧✖屈曲とも一致します。その結果、起こるのが髄核の後方移動、そして腰痛という訳です。

そこでマッケンジー・セラピーでは、急性腰痛の改善策、予防策として、腰椎にかかる、軸圧の除圧と腰椎の伸展を基本方針とします。うつ伏せに寝る事で腰椎の軸圧を除圧し、上体を反らす要領で腰を反らせば、これが腰椎の伸展です。持続的に行う方法もあり、動かしながら行う方法もあります。痛みが重度の場合は、持続的に行う方法を選択します。これをマッケンジー・エクササイズといいます。マッケンジー・エクササイズを行った時に、痛みの増大が大きい時は中止します。

また、マッケンジー・セラピーでは、前項で記述しました様に、日常生活の中で、軸圧✖屈曲の姿勢、動作時の工夫あるいは回避する事も重要となります。荷物の持ち上げ、座位、座位からの立ち上がりなどに於いてです。

急性腰痛と腰痛ガイドライン

腰椎の椎間板内で髄核が後方へ移動し、痛みのセンサーを押している事が、整形外科学的な急性腰痛の原因であるという見解、そして定義になるかと思います。

しかし、ヨーロッパにおける腰痛ガイドラインでは、前記の様な、椎間板ヘルニアの前段階的な、髄核の後方移動は、急性腰痛を含め、腰痛とは何ら関係が無いという事になっています。

整形外科学も含め学問は、一度、立証されて定説となると、その定説は長い期間、改定される機会があまり無いという性質があり、その間に、新たな研究によって発見された理論、手法、そして仮説や試行錯誤も含め、より良いアプローチや新たな可能性から遅れを取る事になり易いという事情があります。ですので、定説にあまり捕われ過ぎない事も必要となるでしょう。

私個人の考えとしては髄核の後方移動による椎間板の変性も、急性腰痛を含めた、腰痛の原因として考えられますし、それに対するアプローチの有効性もあると思います。つまり重要な事は、急性腰痛に於いても原因の部分で多様性があり、個々の、その時々の分析とアプローチが重要であるという事がいえると思います。そして急性腰痛とは、病気では無い急に痛くなる腰痛であると捉えてよいと思います。これが、いわゆる一般的に使われる、ぎっくり腰です。

髄核の後方移動による椎間板の変性、以外の急性腰痛の原因については次項から説明していきます。

急性腰痛と筋肉の固着

急性腰痛は、筋肉に起因している事が多いです。筋肉の過度な収縮、固着により、神経や知覚終末を圧迫した状態となり解除出来ない状態です。慢性腰痛も同様の原因で起こりますが、急性腰痛では、より収縮、固着の度合いが大きいといえます。そしてこの収縮と固着は、腰の筋肉だけではなく、臀部と脚の筋肉にも起こっています。腰の筋肉よりも大きな臀部と脚の筋肉の収縮と固着は、下から、腰の筋肉を引っ張る形となり、腰の筋肉との引っ張り合いになりますが、結果的に小さい筋肉である腰の筋肉の方が負担が大きくなり、収縮と固着の度合いも大きく、自覚症状を出し易くなります。腰の筋肉の収縮と固着が解除されにくい原因の1つとして、腰の筋肉の筋繊維の走行が複雑であるという事がいえます。それは例えば単純に、一方向へのストレッチで解除するという事が出来ないという事です。加えて、原因が腰以外の臀部、脚の筋肉の収縮と固着にあるからです。つまりアプローチとして臀部や脚の筋肉の収縮、固着の解放や、腰の筋肉に対してストレッチ以外の方法で、収縮と固着を解放していく必要性があります。また、腰の筋肉に、長期間に及ぶ物理的な負担、緊張と固着状態によって、筋繊維がミクロの世界で壊され、炎症が起こっている場合もあるので、この様な損傷や炎症がある場合は、腰の筋肉への直接的なアプローチは回避する必要性もあります。

急性腰痛と伸長反射

腰と臀部と脚の筋肉が、一連の収縮、固着状態である時、これらの一連の筋肉は伸びにくい状態となっています。伸びにくい筋肉が伸ばされた時に、筋肉には伸張反射(しんちょうはんしゃ)が起こり易くなります。伸張反射とは、伸ばされた筋肉が反発して、縮もうとする力みが起こる事をいいます。例えば立位前屈の動作では、腰と臀部と脚の、背面側の一連の筋肉が伸ばされる形となり、伸張反射が起き易くなります。前述の様に、これらの筋肉が伸びにくい状態となっていると、伸びしろが少ない為に、僅かな前屈でも伸張反射が起き易くなっています。例えば、顔を洗おうとした時、口を濯ごうとした時などです。また、伸張反射は突発的に伸ばされた時に、特に起き易いです。例えば咳やくしゃみをした時などです。これらの日常の動作の中で、特に伸張反射が起き易いのは、普段から、より大きな負担に晒され、収縮、固着状態となっている腰の筋肉です。この腰の筋肉の伸張反射によって、最大限の力みが入り、つっている状態。これが急性腰痛の原因の1つです。アプローチ方法は、やはり、腰と臀部と脚の筋肉の収縮と固着の解放となります。筋肉の伸張反射を解除するアプローチは、筋肉がこり固まっている様な癒着を解除するアプローチとは異なるので、伸張反射であるか、癒着であるかの判別と、個々のアプローチが必要となるでしょう。また、腰の筋肉に顕微な損傷や、炎症がある場合もあり、この場合には、腰の筋肉に直接アプローチする事を回避する事が必要です。

急性腰痛とインナーマッスル

腰の筋肉は小さく、その割に姿勢や動作時の負担が大きく、また臀部や脚の筋肉に引っ張られるという負担にも晒され易く、その結果、筋肉の収縮や固着、顕微な損傷や炎症を起こし易いといえます。

骨格、関節を支える役目をしている筋肉は深部の筋肉のインナーマッスルで、腰の関節とは腰椎です。腰椎と仙腸関節、股関節を跨いでいる大腰筋は、これら腰椎、仙骨、股関節を保持して安定化させています。この大腰筋の筋力低下は、腰椎、仙骨、股関節の保持する機能が低下し不安定となります。結果として、腰、臀部、太ももなどの、より浅部の筋肉のアウターマッスルが、収縮、固着し緊張状態となります。そして、より負担の大きく、収縮や固着を起こし易いのは腰のアウターマッスル、例えば脊柱起立筋などです。

これはインナーマッスルの筋力低下によって、骨格、関節の保持が上手く働かず、アウターマッスルがその手助けをしようとしている反応です。しかし、アウターマッスルの役割は身体を動かす事であり、骨格、関節を支える役割としては不向きです。その為、アウターマッスルが骨格、関節を支えようとしても、その役割を上手く果たせず、収縮や固着、といった問題を起こしている状態です。

ここで重要なアプローチとなるのは、インナーマッスルの筋力低下への、正常化です。最も単純な方法は筋トレになります。例えば、大腰筋のアイソメトリックスによる筋トレなどです。アイソメトリックスとは静止状態で負荷をかける方法です。効率が良く効果も高い筋トレ方法で、特に、骨格、関節を支える役割であるインナーマッスルの筋力低下を改善する方法として適していると思います。それから腹部のインナーマッスルである腹横筋の筋力低下のケースも多く、筋力の正常化が重要となります。腹横筋の場合は、呼気誘導と共に下腹部を凹ませるドローインなどです。

急性腰痛と精神的ストレス

精神的なストレスもまた、腰の筋肉に緊張状態をつくります。急性腰痛に、特徴的な良くあるケースは、持続的な緊張状態が緩和する時に起こるケースです。例えば仕事上で重要なプロジェクトがあり、長期間にわたって、精神的なストレスを抱える事で、交感神経が優位になると、交感神経の働きにより、筋肉の緊張状態、血管の収縮、血流不足の状態となります。例えば大腰筋は精神的なストレスの影響を受け易い筋肉です。これらの原因により、腰の筋肉に過度な収縮と固着が出来上がります。そして、仕事上のプロジェクトが無事に終了したなどの、精神的なストレスから解放された時に、今度は、副交感神経が優位になり、筋肉は弛緩し、血流が正常に回復されます。すると今まで、固められていた大腰筋を含む、腰の筋肉が一気に弛緩し、一時的に不安定な状態となります。大腰筋などのインナーマッスルが普段から弱い方は、この様な状態に陥り易いといえます。精神的ストレスによって、不本意であっても固められていた腰の支えが無くなり、不安定で痛め易い状態へと傾きます。冬の間、山で固められた雪が、春の日差しと共に解け出して、雪崩となって崩れ落ちていくイメージです。これは一見、悪い事の様に思えますが、精神的なストレスと、それによって腰の筋肉が固められていた状態からの解放であり、快方へ向かう春の兆しです。ここでもキーポイントとなるのは、大腰筋などのインナーマッスルが、正常に働き、腰部と腰部周囲の骨格、関節を支えられる状態をつくる事です。

加えて、血流が回復する事により、今まで溜め込んでいた筋肉を収縮させる化学物質などが洗い流される兆しでもあります。更に、顕微な損傷を修復する為の炎症作用が起こり易くなりますが、これも正常な筋肉、組織の再生という快方に向かう兆しです。ですので血流、そして体液の正常な循環が、筋肉を含め身体に取って重要な事です。カイロプラクティックやオステオパシー、または筋膜リリースなど、手技によってもお力になれますし、日常生活に於いても、身体を適度に動かす事が重要です。それは例えば安静にしているよりも日常生活を普通に送る方が、急性腰痛を含め、腰痛は治り易いという科学的なデータでも立証されています。ただし、炎症の反応が強く出ている場合は暫くの安静、場合によってはアイシングも必要です。目安としては、急性の痛みが出始めてから3日以内くらいです。

急性腰痛と心因性疼痛

急性腰痛には、心因性疼痛(しんいんせいとうつう)が大きく関わる事があります。前項までに挙げました様に何らかの原因で急性腰痛を発症した時に、その激烈な痛みに対して、恐怖感と共に痛みの経験が脳に記憶されます。そして脳が恐怖感と共に腰への痛みに対し警戒心を強め、過敏になり、その後に起こる、本来、些細な痛みであるはずの腰痛に対して、その痛みを増幅し、以前に発症した急性腰痛の様な激痛に変えてしまうという事があります。更に、脳は、無いはずの腰痛の痛みをつくり出し、増幅し、急性腰痛の激痛をつくり出してしまう事もあるのだと、まだ未解明の部分もありますが、科学的にわかってきている様です。この様な痛みを心因性疼痛といいます。脳神経を含む、神経には周囲の状況や身体の内部の状態に合わせて、形を変えていくという順応性があります。これを可塑性(かそせい)といいますが、可塑性によって、痛みに対しての、過敏性や、痛みをつくり出す事は、痛みへの負の順応性であり、痛みの慢性化といえます。

痛みに恐怖感を抱いてしまう事も致し方ない事だと思いますが、痛みを探る様に耳を澄ませる癖を少し手放してみる事が有益に働くでしょう。これまでお話ししました様に、痛みのサインが回復の兆しである事もありますし、急性腰痛によって、腰に致命的な何かがある訳では無いので、まずは安心して頂きたいと思います。

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